写真と心の中に刻まれた、ある日の旅のワンシーン…
鉄道と列車、駅舎巡り、エアラインと言った乗り物系の他、旅で訪れた街の風景、気になるモノ、宿泊したホテルなんかも綴った旅行記ブログ。日本全国、たまに海外へ…
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紀勢本線の木造駅舎巡り2日目で、今日は白浜~紀伊勝浦間のいくつかの駅を巡る予定です。しかしこの区間では、列車間隔が2時間以上空く時間帯もあるため、2区間の駅間徒歩を含み、私の駅巡りの旅としてはややハードな予定になっています。
白浜駅から、海を眺めながら最初の停車駅の見老津(みろづ)駅へ。紀伊半島は若干暖かいかなと思っていたら意外と大差無く、紀伊半島西岸で午前中は日が当たらないこの駅は、海から冷たい空気が運ばれ身をすくめてしまいます。
見老津駅には改修された木造駅舎が残っています。とうに無人駅となっていて、駅事務室とか内部を除くとがらんどうで少々荒れ気味…
ここから約3km先の江住駅までは最初の駅間徒歩となります。ところが駅前をうろうろ見ていると、バス停があり何気に時刻表を見てみると、江住駅行きのバスがちょうど出たところ…。しかも1日3便のうちの貴重な1本。これに気付いていれば楽々移動できたのにとショック。そういえば先ほど、地元の人々が駅前にいたのはこのためだったのか…。
とは言え最初の予定通り、気を取り直して江住駅を目指して歩き始めました。見老津の集落に差し掛かり…
可愛いゴールデンレトリバーにまとわりつかれたり…
紀州の漁港ある海の風景を楽しみつつ…
道中の安全に、お地蔵様に手を合わせ…
1時間弱歩き江住駅のプラットホームが遠くに見えた時は、やはりホッとしました。晴天が気持ち良く、歩いているうちに寒さも吹き飛びました。普段は列車の中から思いを馳せるだけの道や集落を歩けたのは、まるで車窓風景の中を歩いたかのな新鮮な気分で、駅間徒歩を楽しみました。
海沿いの国道から少し入った所に江住駅はありました。
無人駅となっているのですが、かつて窓口跡に地元の人々の俳句が飾られているのが温かみを感じさせます。窓口こそ塞がれて居ますが、カウンターは木の板という昔のままの造りを残しています。
この駅…、というか駅前で印象的だったのが、駅前の喫茶店が営業していた事です。無人駅となり寂れた感じのするこのテの駅前は、食堂などお店が閉店となってしまい余計に寂れた雰囲気になってしまうのですが、この喫茶店みたいに頑張っているお店がまだあるものなのだと嬉しく思います。時間があれば寄りたかったのですが…。中からは常連さんでしょうか?賑やかな何人もの人の声が響いてきました。
一端、周参見駅に折り返し、再び上り列車に乗りました。
そして下車したのが紀伊有田駅。 重厚な石積みの造りが残るプラットホームに、この駅の歴史を感じます。
待合室は改装されながらも窓口跡が残っていたのですが、特筆すべきはこの木製の造り付けベンチ。何と木材で改修されています。木造駅舎の造り付けのベンチは改修されると、たいてい味わいは落ちてしまうのですが、昔ながらに木材で改修されていて感嘆!しかも古いベンチの上に木材を載せるという改修方法をとっているため、脚は古いままというのがまたいい味を出していています。まだ使い込まれていない白木の表面を触ってみると、ザラザラとした真新しい木の感触がどこか心地よかったです。これが長年使い込まれると、表面が削り取られ滑らかになっていき、木目が浮いてくるのだなと思うと、何年後…、何十年後に紀伊有田駅に訪れるのが今から楽しみです。
紀伊有田駅の木造駅舎。正面は大きく改修されていて、一面真新しい白いトタン板で覆われている様は今時のデザイン住宅か何かのよう…。けれど側面は使い込まれた木のままで古い木造駅舎らしい趣き。駅舎正面や駅前に桜の木が何本も植えられていて、春は桜できれいそうです。
紀伊有田駅から隣の田並駅までの約1.8kmは、この日2回目の駅間徒歩となります。ほぼ国道沿い約2km程度の徒歩で、最初は楽勝かと思っていたのですが、しばらくすると人家が見当たらない山のような道になり、地元の歩行者も皆無。そしてトンネルが立ちふさがりました。僅か数百メートルのトンネルとは言え、そこそこの交通量があり路側帯も狭く慎重に歩き抜けました。
ようやく田並駅が見えた頃…、警察官に職務質問を受けてしまいました…orz 地元の人でさえあまり歩かないような所をよそ者がトボトボ歩いていたら、そりゃ質問したくなるよなと妙な納得感がありました。警察官の話によると、道の真ん中を歩いている人がいると通報があったとの事。海の景色を見たかったりなど、道路を渡った事は何回かありましたが、すぐに渡ったつもり…。・まあ、やましい所は無いので、質問に一つ一つ答えていき5分程度で開放されましたが。後で田並駅にいる時、駅前にパトカーが様子を覗いに来ていました。しっかりと仕事をしているようですね。
駅前のAコープで昼食を調達し、田並駅にやってきました。木造駅舎がやたらと成長した蘇鉄に霞んでしまっています。
待合室で昼食を食べていて、ふと内部を見ていると、出入り口上に大きな手描きの地図が掲げられていました。レトロで古びた雰囲気がする地図は「磯釣り案内」で、田並駅から田子駅までの海岸が、浦や小島から岩礁名まで相当細かく紹介されていました。ベテランの釣り人なら、手描きのあの地図を見ただけでカンを働かしポイントを見つけたのかもしれません。
そう言えば、釣り人のために天王寺発新宮駅行きの夜行普通列車、通称「太公望列車」が運転されていました。定期の夜行普通列車なんて、私の世代…というか感覚ですら相当珍しいのに、昔は釣り人のためにそんなものが運転されていたのだなと驚かされます。昔はきっと夜も明きらぬ田並駅に降り立ち、海岸に歩いた釣り人が何人も居た事でしょう。
そして、この旅のラストとなった紀伊浦神駅へ。木造モルタルの駅舎で、駅舎左手には地元の人々が育てていると思われる花壇もあり、駅が大切にされているのだなと感じます。
紀伊浦神駅の木造駅舎は改修されているとは言え、待合室内部は窓口跡、造り付けのベンチや内装など昔の木造駅舎らしい雰囲気はよく残っていました。改札口に乗車証明書発行機がデンと居座っていますが、錆び錆びでもう使われていなく放置状態。
この次に1駅戻り紀伊田原駅も見られる事に気付きましたが、あれこれ写真を撮っている内に乗り逃してしまいました。気付いた時は既に遅く、構内通路が長く、しかも構内踏切に阻まれてしまい、眼前を通過する列車を見送るしかありませんでした。構内踏切を列車が通った後、全力で列車に駆け込めば運転手さんが待っててくれたかもしれませんが、そこまでしなくてもいいやと思い、この駅に留まりました。最初は下里駅に歩いて行こうかとも考えていたのですが、結局、2時間近くこの駅に居る事になりました。でも何のかんの言って、過ごせるものなのだなあ…。
今回、紀勢本線を選んだのは湯浅-紀伊勝浦間が未乗だったという理由が大きく、事前に調べた限りではレトロ駅舎にはほとん期待していませんでした。だけど、下車駅それぞれに興味深いモノを残していて、改修された木造駅舎にも侮り難い魅力があるものだと改めて教えられました。終わってみれば楽しい駅舎巡りの旅でした。
[2013年(平成25年) 1月訪問]
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